バイオマス利活用先進事例視察に関する情報

堆肥水田利用事例視察

畜糞の基本的な利用方法は、「堆肥化→田畑へ施用」ですが、必ずしも有効利用は進んでいないようです。そこで9月11日、堆肥の水田への利用を促進する取り組みを行っている西尾市に、取り組みの経緯、問題点等を伺ってきました。

土の中の有機物(腐植)の重要性

 森で落ち葉の下をのぞいてみると、黒いふかふかした土が出てきます。この土は、落ち葉や枯れ枝のうち、分解されやすいもの(易分解性有機物)が微生物によって分解され、分解されにくいもの(難分解性有機物)が化学変化を起こして出来たもので、腐植と呼びます。
 腐植は、土壌を膨軟にし、微生物のエサとなり、ゆっくりと分解されながら植物の養分を放出するとともに、表面に養分を保持する等、植物の生育にとってとても重要な働きをしています。

 化学合成肥料が出回る前は、お百姓さんたちは、飼っている牛馬の糞(厩肥)や、稲わら、周囲の雑草から堆肥を作り、田んぼに入れることで、土を作り、お米を生産していました。
 ところが、化学合成肥料が出回ると、少量撒けばよいので手間が少なく、飛躍的に収量の上がる化学合成肥料の需要が一気に高まりました。県や農協も化学合成肥料依存の施肥体系を発達させたため、現在では、たとえば愛知県では、水田の1割にしか堆肥等の有機物の補給をしていないそうです1)。
 化学合成肥料は、安価で、必要量が少なく、効いて欲しい時期に確実に効くというメリットがある反面、腐植の減少を招くというデメリットがあります。腐植が消費されてしまうと、土が固くなり、養分を保持する力が減り、植物にとっての病原菌の繁殖の可能性も高くなってしまいます。

 多くの生産者は、土作りの重要性を理解していますが、化学合成肥料依存の施肥体系に慣れてしまったせいで、堆肥をやることで倒伏するのが心配、かさばる堆肥をまく手間が大変といった理由で、堆肥の利用には踏み出せないでいます。

西尾市の現状

西尾市はお茶や植木栽培のほか、水田作が盛んです。表を見ると、豊橋・田原では水田の面積より畑の面積の方が数倍広いのに対し、西尾市では水田面積の方が倍以上あるのがわかると思います。
西尾市中心部では、米の生産調整率が42~43%であり、転作品目として冬小麦(秋植え)と大豆を生産しています。
一方、東三河ほどではないものの、畜産農家もいます。当然大量の畜糞が発生しますが、上に書いたように、耕地面積の2/3を占める水田で、畜糞堆肥の利用が進んでいないため、有効利用しにくい状態になっています。

表1.耕地面積(ha)と飼養頭羽数

  水田 乳牛 肉牛 採卵鶏 ブロイラー
西尾市 2,230 970 1,180 440 8,590 12
一色町 514 273 550 200 8,050 38
吉良町 764 526 670 1,460 18,100 528
幡豆町 120 150
豊橋市 2,770 4,660 6,293 12,316 86,413 1,689 144 2,860
田原市 1,370 5,030 6,506 20,314 124,666 1,204 94 435
愛知県計 47,900 35,900 37,300 58,200 377,200 10,712 1,054 4,244

耕地面積:東海農政局「愛知農林水産統計年報」平成16年7月15日

飼養頭羽数:愛知県,平成18年2月1日(採卵鶏、ブロイラー、鶉),平成19年2月1日(乳牛、肉乳、豚)、※は生産者1名のため未公表

西尾市の活動事例

堆肥製造状況イメージ 堆肥製造状況

西尾市では20年以上前から、各畜産農家に個別の堆肥舎の導入を指導してきました。できた堆肥は、自家消費や近隣の圃場に還元していましたが、経営規模の拡大により、処分しきれないものがでてきました。
 そこで西尾市酪農組合では、平成12年より堆肥共励会を開催し、堆肥品質の向上、水田作農家との連携を進め、平成18年には西三河農協農作業受託部会西尾支部(会員32軒)と協力し、環境保全型農業推進事業(土づくり事業)に取組むことになりました。
 土づくり事業は平成18年から平成22年までの5年間、乳牛糞由来の高品質堆肥を農作業受託部会などの耕種農家が水田に使用する場合、1tあたり1,000円、市が補助するものです(上限200万円)。
 西尾市の畜糞堆肥は1tあたり2,000円前後ですので、半額補助に相当します。

堆肥利用水田イメージ 堆肥利用水田

利用する側の耕種農家では、堆肥を入れた方がいい米が出来るのはわかっているものの、今まで使っていなかった堆肥の導入には慎重です。今年は事業を始めて3年目になりますが、いくつかの問題点が明らかになっています。西尾市役所農林水産課、酪農組合組合長、受託部会部会長の方のお話から下にまとめました。


問題点
  1. できた米の有利販売が出来ず、出費(堆肥購入費)だけが増えてしまう。
  2. 堆肥散布によって、農薬の効かない雑草が生えるという風評。
  3. 転作の有無がぎりぎりにきまり、散布時期が集中してしまうため、在庫不足で、堆肥の品質が落ちてしまう。
  4. 天候や水位、土質によって、散布できる圃場、時期が限定されてしまう。
  5. 中干しで地力が発現し、倒伏してしまうなど、肥効(肥料の効き具合)の調節が難しい。
  6. 転作田では、麦播種まで時間がなく、散布できない。

このうち、問題点3については、田原市のように共同の堆肥センター、保管庫を作れば解決できますが、費用負担する人が見つかっていません。問題点4,5,6については、散布機や、施肥体系、作型の改良など、今後とも県の試験場(PDFファイル/931KB,35ページ目参照)などとの連携が必要と思われます。

一方で、今まで連携することがなかった、耕種農家と畜産農家が同じテーブルにたって資源問題を議論したという点では、非常に意義深いものだったと思われます。平成22年以降補助がなくなった後どうするか、市で検討中とのことですが、畜糞の有効利用がより進むことを願っています。

豊橋への適用の可能性

豊橋市内には西尾市を上回る2,770haの水田があります。また、西尾市に比べて流通する堆肥の相場が安いのが現状です。この点では西尾市よりも普及の可能性が高いといえます。
 一方で、西尾市ほど受託農家に農地が集中しておらず、面積の確保に時間がかかる可能性があります。
 豊橋市で水田への堆肥施用を普及するためには、市と県普及課、農協、耕種・酪農農家が一同に会した検討会を開催し、耕種・酪農双方の同意を得ながら、検討を進める必要があるでしょう。

参考文献

1)家畜ふん堆肥の水稲作での利用,愛知県堆肥生産利用推進協議会発行

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